就労継続支援B型×室内水耕栽培:工賃底上げと利用者QOL向上を同時に実現する農福連携モデル


就労継続支援B型×室内水耕栽培:工賃底上げと利用者QOL向上を同時に実現する農福連携モデル

工賃17,000円の壁――B型事業所が直面する構造問題

就労継続支援B型事業所の平均工賃は、厚生労働省の調査(令和4年度)によると月額約17,031円。最低賃金(時給換算)と比較すると大きなギャップがあり、利用者の経済的自立を妨げる課題として長年指摘されてきた。

B型事業所が担う作業の多くは「内職・軽作業・清掃」が中心で、受注単価が低い構造が続いている。工賃を引き上げるには、根本的に作業の「付加価値」を変える必要がある。

その有力な選択肢として注目されているのが、室内LED水耕栽培によるハーブ自主製品の生産・販売だ。


なぜ「室内水耕栽培×B型」なのか

工賃向上へのアプローチには大きく3つある。

  1. 高付加価値作業の導入:単価の高い仕事を受注する
  2. 作業効率の改善:同じ時間でより多くの成果物を生産する
  3. 自主製品の販売:受注ではなく自ら製品を作り、利益率の高い販売を行う

室内水耕栽培は特に「1」と「3」を同時に実現できる。そして、施設・作業設計の面でもB型利用者の特性に合わせやすい。


室内水耕栽培がB型事業所に適している4つの理由

1. 身体的負担の少ない作業設計

露地農業では、腰を曲げての収穫・除草・土の運搬など、身体的負担の大きな作業が避けられない。一方、室内のメタルラックを使った水耕栽培では:

  • 作業台の高さを車椅子利用者に合わせて調整できる
  • 重い土を扱わない(培養液の管理が中心)
  • 天候に左右されず、年間を通じて室内で作業が完結する
  • 農薬を原則使用しない(手での収穫が基本)

利用者一人ひとりの身体機能や認知レベルに応じた役割分担(播種・水やり・収穫・袋詰め・ラベル貼り)が自然に生まれ、個別支援計画との整合もとりやすい。

2. 高単価ハーブで自主製品の収益を確保

水耕栽培に適した品目の中でも、ハーブ類(バジル・ルッコラ・ミント・イタリアンパセリ等)は市場価格が高い水準を維持している。

  • フレッシュバジル(20g前後)のスーパー販売価格:100〜200円/パック
  • 飲食店向け業務用ハーブ:継続的な発注関係が生まれやすく、安定収入の基盤になる

土耕栽培に比べ水耕栽培は収穫サイクルが短く(バジルで播種から収穫まで4〜6週間)、年間を通じて安定供給できる。これが売上の平準化と工賃の安定に直結する。

3. IoTで管理業務を効率化し、支援員リソースを本来業務へ

室内水耕栽培にIoTセンサーを組み合わせると、支援員の日常的な管理業務を大幅に削減できる。

  • EC/pH/水温センサー:培養液の状態を自動計測・記録
  • CO2センサーと換気制御:室内環境を最適に保つ
  • タイマー制御:LEDと水中ポンプを自動運転

センサーが異常値を検知したときだけ通知が飛ぶ仕組みにすれば、支援員は「毎日の見回り」ではなく「アラートへの対応」に集中できる。浮いたリソースを利用者への個別支援に充てられるのは、福祉の観点からも重要なメリットだ。

4. 季節に左右されない安定生産

露地野菜の最大の課題は季節変動だ。夏・冬は生育が不安定になり、売上も波打つ。LED照明と空調を組み合わせた室内栽培であれば、北国の真冬でも一定品質のハーブを生産できる。売上の安定は工賃の安定に直結し、事業計画も立てやすくなる。


農福連携が利用者QOLに与える効果

工賃向上の効果だけでなく、農業・植物栽培が利用者の精神的健康に与えるポジティブな影響も、福祉現場での実践報告や園芸療法の研究で注目されている。

播種から収穫までのプロセスが自己効力感を育てる

植物を育てる行為(播種→発芽→成長→収穫)には、目に見えるかたちで「自分の行動が結果に結びつく」という体験がある。

  • 毎日の成長を観察する習慣が「日常のリズム」を生む
  • 「自分が育てたハーブが売れた」という経験が達成感と自信につながる
  • 香りのある植物は嗅覚・視覚・触覚への自然な刺激になる

社会とつながる実感

単純な内職作業と異なり、「地域のレストランに新鮮なハーブを届けている」という具体的な社会貢献の文脈が生まれる。「自分の仕事が誰かの役に立っている」という実感は、利用者の社会参加意識と自尊感情の向上に寄与する。


導入にあたっての現実的な課題

メリットが多い一方、正直に課題も提示しておきたい。

初期投資の壁

メタルラック・LED照明・水耕システム・センサー類を含む1ラック構成でも、相応の初期費用が必要になる。ただし、農水省の「農福連携推進事業」や各都道府県の福祉事業所向け補助金、中小企業庁のものづくり補助金などを組み合わせることで、実質的な自己負担を抑えることが可能だ。導入前に補助金の活用可否を確認することを強く推奨する。

販路の確保

栽培できても、売り先がなければ収益にならない。地域の飲食店・道の駅・業務用食材業者への営業活動が必要になる。最初の1〜2件の継続取引先を確保できるかどうかが、事業の継続性を左右する重要な要素だ。

技術的サポート体制の整備

IoTシステムのトラブル対応や、作物の生育不良への対処は専門知識が必要になる場面がある。外部の技術サポート(設備提供者・農業指導者)との連携体制を、導入前に確立しておくことが現実的な運営の鍵になる。


Optiensの取り組みと就労支援事業所への展開

Optiensは現在、Phase 1(自宅テスト栽培)のシステム構築を進めています。Raspberry Pi + Zigbee2MQTT + MQTTを組み合わせたIoT水耕栽培システムを自社農場で実証し、ユニットエコノミクスの安定性を確認することが現段階の最優先事項です。

Phase 4〜5では、この実証で得た知見をパッケージ化し、就労支援事業所・自治体へのシステム導入支援を事業の本柱として展開する計画です。機器選定・IoT設定・作業設計・販路開拓のサポートまで、事業所の規模と利用者特性に合わせた一気通貫のサポートを想定しています。

B型事業所の管理者・支援員の方で、室内水耕栽培の導入にご興味のある方は、ぜひお問い合わせページからご連絡ください。


まとめ:B型事業所の工賃向上に、室内水耕栽培という選択肢

就労継続支援B型事業所に室内LED水耕栽培を導入することで、以下の効果が期待できる。

観点効果
工賃向上高単価ハーブの自主製品販売による収益構造の転換
作業設計利用者の障害特性に合わせた柔軟な役割分担
管理効率IoTによる自動化で支援員が本来業務に集中できる
利用者QOL農業の療法的効果と「社会に貢献している」実感
安定性年間を通じた安定生産で売上・工賃が平準化

工賃の構造的な底上げを目指すB型事業所にとって、室内水耕栽培は内職作業の延長線上にない、新しい選択肢だ。まずは小規模な1ラック構成から始め、ユニットエコノミクスを確認しながら段階的に拡大するアプローチが現実的だろう。


参考資料

  • 厚生労働省「令和4年度工賃(賃金)の実績について」
  • 農林水産省「農福連携等の推進に向けたロードマップ(令和元年策定)」
  • 農林水産省「農福連携の推進について」