フードマイルとは何か
フードマイル(Food Miles)とは、食料が生産地から消費者の食卓に届くまでの輸送距離を指す概念です。1994年にイギリスの環境活動家ティム・ラング氏が提唱し、食料輸送に伴う環境負荷を可視化する指標として世界的に普及しました。
フードマイルが大きいほど、輸送に使われる燃料が増え、CO2排出量も増加します。つまり、遠くから運ばれた食材ほど「環境コスト」が高いということです。
日本のフードマイルの現状:世界ワーストクラス
農林水産省の試算によると、日本のフードマイルは約9,000億トン・キロメートル(輸入食料の重量×輸送距離)で、世界でも突出して高い水準にあります。これはアメリカの約3倍、韓国の約3倍に相当します。
日本の食料自給率は38%(2023年度、カロリーベース)。つまり6割以上の食料を海外から輸入しており、その輸送距離が莫大なフードマイルを生み出しています。
ハーブ類の輸送距離
日本で消費されるフレッシュハーブの多くは輸入に依存しています。バジルを例にとると:
| 生産地 | 輸送距離(概算) | 主な輸送手段 |
|---|---|---|
| イスラエル | 約9,500km | 航空便 |
| タイ | 約4,500km | 航空便 |
| ベトナム | 約3,800km | 航空便 |
| 国内(九州・四国) | 約500-1,000km | トラック |
フレッシュハーブは鮮度が命のため、船便ではなく航空便で輸送されるケースが大半です。航空輸送のCO2排出量はトラック輸送の約10倍、船便の約50倍とされており(国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」)、環境負荷は極めて高くなります。
輸送CO2排出量の定量比較
輸送手段別のCO2排出原単位(国土交通省データ)を用いて、バジル1kgあたりの輸送CO2排出量を概算してみます。
CO2排出原単位(参考値):
- 航空輸送: 約1,490g-CO2/トン・km
- トラック輸送: 約216g-CO2/トン・km
- 船舶輸送: 約30g-CO2/トン・km
バジル1kgの輸送CO2排出量(概算):
| 供給元 | 輸送距離 | 輸送手段 | CO2排出量 |
|---|---|---|---|
| イスラエル産 | 9,500km | 航空 | 約14.2kg-CO2 |
| タイ産 | 4,500km | 航空 | 約6.7kg-CO2 |
| 国内遠方 | 800km | トラック | 約0.17kg-CO2 |
| 地元(30km圏内) | 30km | 軽トラック | 約0.006kg-CO2 |
イスラエルからの航空輸送と比較すると、地元30km圏内の配送ではCO2排出量が約2,300分の1になります。この差は圧倒的です。
室内栽培×地産地消モデルの環境価値
室内水耕栽培を消費地の近くに設置し、地産地消で供給する。このモデルには、輸送CO2削減以外にも複数の環境メリットがあります。
1. 輸送距離をほぼゼロに
室内栽培施設を飲食店やスーパーの近隣(半径30km以内)に設置すれば、輸送距離は大幅に短縮されます。航空便で数千kmを運ぶ必要がなくなり、軽トラックで数十分の配送で済みます。
2. 鮮度保持のための過剰包装が不要に
長距離輸送では、鮮度を保つための特殊包装材・保冷材・プラスチック容器が大量に使われます。地産地消であれば、最小限の包装で十分です。
3. フードロスの削減
輸入ハーブは輸送中の傷み・品質劣化により、一定割合が廃棄されます。農林水産省の推計では、生鮮野菜の流通段階でのロス率は約5-10%。地産地消モデルでは収穫から消費までの時間が短く、ロス率を大幅に低減できます。
4. 水耕栽培そのものの環境効率
室内水耕栽培は、露地栽培と比較して以下の環境優位性があります:
- 水使用量: 80-90%削減(循環式の場合)
- 農薬: 不使用(密閉環境のため病害虫リスクが低い)
- 土地利用: 垂直栽培により面積あたり生産量が数倍
- 通年生産: 季節を問わず安定供給、需要と供給のミスマッチによる廃棄を削減
「半径30km配送」モデルの環境効果
仮に、月間50kgのバジルを地元レストランに供給するモデルで年間CO2削減量を試算します。
前提条件:
- 月間50kg × 12ヶ月 = 年間600kg
- 比較対象: タイ産航空輸送(4,500km、約6.7kg-CO2/kg)
- 地元配送: 30km圏内(約0.006kg-CO2/kg)
年間CO2削減量:
- (6.7 - 0.006) × 600 ≒ 約4,016kg-CO2/年
これは、乗用車が約16,000km走行した際のCO2排出量に相当します(環境省「家庭からの二酸化炭素排出量」参考値: 約2,300g-CO2/L × 燃費10km/L換算)。たった1品目のハーブだけでも、これだけの環境効果が見込めるのです。
SDGsとの関連
室内栽培×地産地消モデルは、SDGs(持続可能な開発目標)の複数のゴールに貢献します。
目標12: つくる責任 つかう責任
- フードロスの削減(ターゲット12.3)
- 資源の効率的利用: 水の循環利用、過剰包装の削減
- 持続可能な消費と生産パターンの構築
目標13: 気候変動に具体的な対策を
- 輸送CO2排出量の大幅削減
- 気候変動に左右されない安定した食料生産
- 地域レベルでの気候変動対策の実践
目標11: 住み続けられるまちづくりを
- 地域内での食料循環の構築
- 地元農業と飲食店の経済的つながりの強化
Optiensの取り組み
合同会社Optiensは、山梨県北杜市を拠点に、室内IoT水耕栽培システムの開発・実証を行っています。現在はPhase 1のシステム構築を進めており、北杜市内での地産地消モデルの構築を目指しています。
IoTセンサーとAIによる環境制御を組み合わせた栽培システムにより、高品質なバジルやマイクログリーンを安定的に生産できる仕組みを設計しています。将来的には、半径30km以内の地元レストランや道の駅への供給を通じて、フードマイルの最小化と地域経済への貢献の両立を実現することを目指しています。
フードマイルの削減は、一つひとつの取り組みは小さくても、地域に根ざした生産者が増えることで大きなインパクトになります。「食べる場所の近くでつくる」というシンプルな原則が、環境問題の解決につながる。室内水耕栽培は、その実現手段の一つです。
合同会社Optiens(山梨県北杜市)は、室内IoT水耕栽培システムの開発・実証および就労支援事業所への導入支援を行う農業テクノロジー企業です。