「社内ドキュメントを AI で検索」── 2 つの選択肢
中小事業者で「社内マニュアル・FAQ・規定集を AI に読ませて、社員が自然言語で質問できる仕組み」を作りたいというニーズが急速に増えています。代表的な選択肢が 2 つあります。
- NotebookLM(Google 提供の AI ノートブック・無料プランあり)
- Supabase Free + OpenAI Embeddings(自前で RAG 構成を組む方法)
「どちらでも同じことができそう」と見えますが、事業として顧客に提供するか、個人の調査用に使うか で適切な選択が大きく変わります。本稿では 2026 年 5 月時点での両者の実情を整理し、判断軸を提示します。
※ 本稿は 2026 年 5 月時点の各サービス公開情報に基づきます。仕様・料金は変更される可能性があるため、導入時は公式情報を必ずご確認ください。
NotebookLM の実情
概要
Google が提供する AI ノートブックサービス。文書(PDF・Google ドキュメント・YouTube・Web ページ等)を読み込ませると、AI が出典付きで回答する仕組みです。無料プランあり、最近は Plus / Enterprise も展開しています。
API 提供状況(2026 年 5 月時点)
| プラン | API 提供 | 月額 |
|---|---|---|
| 無料 | 公式 API なし | ¥0 |
| Plus / Pro | 公式 API なし | 月額数千円〜 |
| Enterprise(Gemini Enterprise の一部) | alpha 段階で提供 | 組織契約・数万〜数十万円 |
つまり「無料で API 経由で社内ボットに繋ぐ」用途では、公式 API は使えません。
非公式 MCP サーバの存在
GitHub には NotebookLM を MCP(Model Context Protocol)経由で操作する非公式実装が複数あります(PleasePrompto、jacob-bd、teng-lin 他)。これらは:
- ブラウザ自動化(Playwright 等)+ Cookie 流用 で動作
- 公式 API ではなく、人間の操作を機械的に再現する仕組み
- Google アカウントでログイン状態を維持し続ける必要
利用規約上の問題
ここが最も重要なポイントです。
- Google の利用規約は 「自動化アクセス・スクレイピング・bot 経由の利用を禁止」 と明示的に規定
- 上記の非公式 MCP は技術的にこのカテゴリに該当
- 顧客向けチャットボットのバックエンドに使うと、規約違反リスクが事業に直接波及
- アカウント停止・IP ブロック・商用提供時の責任問題が発生し得る
「無料で動くなら使いたい」と思っても、規約違反のサービスを顧客に提供できない のが現実です。
無料プランの上限
| 項目 | 上限 |
|---|---|
| ノートブック数 | 100 |
| ソース数(1 ノートブックあたり) | 50 |
| 1 ソースあたりの容量 | 約 200 MB / 50 万語 |
| チャット質問 | 50 / 日 |
| Deep Research | 10 セッション / 月 |
個人の調査用には十分ですが、社員 10 人で日常的に使う規模だと 1 日で枯渇 する可能性があります。
Supabase Free + OpenAI の実情
概要
オープンソースベースの BaaS(Backend as a Service)「Supabase」の無料プランと、OpenAI の Embeddings API を組み合わせて自前で RAG(Retrieval-Augmented Generation)構成を作る方法です。
Supabase Free プラン(2026 年 5 月時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データベース容量 | 500 MB |
| API リクエスト | 無制限(PostgREST 経由) |
| Edge Functions 呼出 | 月 50 万回 |
| pgvector 拡張(ベクトル DB) | 利用可能 |
| データ保管リージョン | 選択可(東京・US 等) |
| 月額 | ¥0 |
社員 10 名の事業者が日常的に使う規模感:
- 社内ドキュメント数十〜数百 MB → 500 MB 内に収まる
- 1 人 1 日 10 質問 × 30 日 × 10 名 = 月 3,000 リクエスト → API は無制限、Edge Functions 50 万回の 1% 未満
→ 無料枠で十分動く ケースが大半です。
コスト構成(実質運用費)
Supabase 自体は無料でも、AI 部分にコストがかかります。それでも非常に低額です。
| 項目 | コスト |
|---|---|
| Supabase Free | ¥0 |
OpenAI Embeddings(text-embedding-3-small) | $0.02 / 1M トークン(数十 MB のドキュメント全部埋込で 数十円〜数百円) |
| 質問時の LLM API(Claude Haiku 4.5 や GPT-4o mini) | 1 質問あたり 0.3〜1 円 程度 |
| 合計(月) | ¥1,000 〜 5,000 程度(質問頻度で変動) |
構築の流れ
実装は意外とシンプルです(既存記事「業務マニュアルを AI に食わせる RAG 構築の具体手順」も参照):
- ドキュメントをチャンク(数百〜数千文字の塊)に分割
- 各チャンクを Embeddings でベクトル化
- Supabase の pgvector に格納
- 質問が来たら、質問もベクトル化 → 類似チャンクを検索
- 取得したチャンク + 質問を LLM に渡して回答生成
カスタム UI は Astro / Next.js などで自由に構築可能。Slack ボットや業務システムへの組込も自然にできます。
比較表 ── 「事業に乗せられるか」が決定打
| 軸 | NotebookLM 連携 | Supabase Free + OpenAI |
|---|---|---|
| 月額コスト(小規模) | 公式 API 無し / 非公式は無料だが規約違反 | ¥1,000〜5,000(実質無料 + API 実費) |
| 月額コスト(社員 30 人規模) | Enterprise 必須・数万〜数十万円 | ¥3,000〜1 万円 |
| 利用規約 | 違反リスク高(自動化アクセス禁止) | クリア |
| カスタム画面埋込 | 規約違反前提なら可能 | 完全カスタム可 |
| 顧客への提供(ビジネスとして) | 不可(事業停止リスク) | 可 |
| データ所有 | Google 側 | 顧客名義のクラウド |
| 機密情報対応 | 不可 | クラウド版+ローカル LLM 版を選択可 |
| 質問数の上限 | 50/日(無料)など厳しい | API リクエスト無制限・Edge Functions 月 50 万回 |
事業の継続性・カスタマイズ性・コスト の 3 軸ですべて Supabase が優位です。
NotebookLM が活きるシーン(限定的)
NotebookLM 自体は優れたサービスです。以下のシーンでは引き続き有用です。
A. 経営者個人のリサーチ補助
- 公募要領 PDF を読み込ませて要点抽出
- 業界レポートの比較
- 過去の議事録から類似事例を探す
B. MTG での体感デモ
- 「こんなことができます」を 5 分で見せる
- 顧客サンプル文書を入れて、その場でチャット
- 「では本番は別構成で」へ繋ぐ営業導線
C. 顧客の PoC(試験)段階
- 「とりあえず触ってみたい」レベルの体験
- 効果を実感したら自社専用の本番構成へ移行
要するに 「個人・体感・短期 PoC」までは NotebookLM、本番運用は Supabase ベース という使い分けです。
中小事業者の現実解
社内ナレッジ AI を導入する際の判断フロー:
[ 個人で調査用に使うだけか? ]
Yes → NotebookLM 無料プランで十分
No ↓
[ 顧客に提供するサービスか? ]
Yes → 規約違反リスクで NotebookLM は採用不可
→ Supabase Free + OpenAI で自前構築
[ 社内の社員向けに使うか?(中規模 30 人以下) ]
Yes → NotebookLM 無料プランは 50 質問/日で枯渇する可能性
→ 実用面でも Supabase Free が現実的
「無料で済ませたい」という動機自体は健全ですが、実は Supabase Free でほぼ無料で動きます。NotebookLM の規約違反リスクを背負うほどのコスト差は存在しません。
まとめ
- NotebookLM は無料で優秀だが、API は無料・Plus に未提供、Enterprise のみ alpha
- 非公式 MCP は すべて Google 利用規約違反のリスクあり(自動化アクセス禁止)
- Supabase Free プランは 小規模なら無料(500 MB DB・API 無制限・Edge Functions 月 50 万回)で動く
- 中小事業者の現実解は Supabase Free + OpenAI Embeddings + カスタム UI
- NotebookLM は 個人リサーチ・MTG デモ・顧客 PoC に限定使用
「無料」を理由に NotebookLM を本番に乗せると、事業継続性のリスク を背負います。Supabase で自前構築すれば、コストはほぼ変わらず、規約違反リスクなく、カスタム UI まで実現できます。
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