「うちの営業、新規が弱いんですよね」
中堅企業の経営者から、繰り返し聞く悩みがあります。
「営業部に『新規開拓に注力しろ』と言い続けているんだけど、数字が伸びない。本人たちもサボっているわけではなく、忙しそうにしている。でも結果が出ない。何が悪いのか分からない」
この悩み、原因の多くは 「営業が新規業務に時間を使えていない」 ことです。本人は精一杯働いていても、その時間が既存顧客対応・社内会議・事務作業に取られていて、新規開拓に時間が回らない。
ところが、これを 本人も上司もファクトとして把握していない ため、対話が成立しません。「もっと頑張れ」「頑張ってます」の堂々巡りで終わります。
本稿では、AI を使ってこの構造を可視化する 「マネージャー版 AI ダッシュボード」 の設計を解説します。
※ 本稿は 2026 年 5 月時点の事例観察に基づきます。
「営業時間 5% 問題」とは
実運用に乗っている事例として、ある中堅企業のマネージャー版 AI ダッシュボードでは、営業担当 1 人ひとりの 1 日の時間使用が可視化されています。
ある営業担当の例:
| 業務 | 時間配分 |
|---|---|
| 既存顧客対応 | 80% |
| 社内会議・報告 | 10% |
| 事務作業 | 5% |
| 新規営業活動 | 5% |
この営業担当には「新規受注を伸ばせ」という指示が出ていました。本人も上司もそのつもりで仕事をしていました。
ところが AI が実態を抽出すると、新規営業に使えている時間はたった 5%。これでは新規受注が伸びるはずがありません。
別の同僚を見ると:
| 業務 | 時間配分 |
|---|---|
| 既存顧客対応 | 15% |
| 社内会議・報告 | 5% |
| 事務作業 | 0% |
| 新規営業活動 | 80% |
同じ部署、同じ役割なのに、時間の使い方がまったく違う。この差は本人も上司も気づいていなかった ものです。
なぜこれまで把握できなかったのか
理由 1: 上司は横でずっと見ているわけではない
営業の上司は、自分も商談・会議・報告で動いています。部下の 1 日の時間配分を分単位で監視することは物理的に不可能です。
理由 2: 本人も自分の時間配分を正確には言えない
「今週どれくらい新規に時間使った?」と聞いても、本人の感覚値は実態と大きくズレることが普通です。「結構やったつもり」が実際には 1 時間以下、というケースが多発します。
理由 3: 日報で書かれる粒度が粗すぎる
「今日は AAA 株式会社訪問・BBB 商事と打ち合わせ」のような日報では、「それぞれが新規か既存か」「準備にどれくらい時間を使ったか」までは分かりません。
マネージャー版 AI ダッシュボードの仕組み
Step 1: 行動ログの自動収集
営業担当の以下のデータを自動収集します:
- Google カレンダー:会議の予定・実績・参加者
- Google Meet 録画 → 文字起こし:会議の内容
- Slack 投稿:チームでのやり取り
- CRM ログ(Salesforce 等):商談ステージ・顧客接触履歴
- メール(任意):取引先とのやり取りの件数
Step 2: 業務分類
収集したログを AI が自動分類します:
- 「新規顧客との接触」 vs 「既存顧客との接触」
- 「商談」 vs 「社内会議」 vs 「報告書作成」
- 「重要顧客」 vs 「ロングテール顧客」
分類軸はマネージャーが事前定義しておきます。
Step 3: 時間配分の集計
週次・月次で各担当の時間配分を集計し、ダッシュボードに表示:
営業 A さん(今週)
既存顧客対応:32 時間(80%)
社内会議:4 時間(10%)
事務作業:2 時間(5%)
新規営業:2 時間(5%) ← アラート
Step 4: アラートと対話の起点
「新規営業 5%」のような 目標との乖離が大きい数字 に対して、ダッシュボードから自動アラート。本人と上司が見える状態になります。
このとき重要なのは、ファクトが共通認識として目の前にある こと。「もっと頑張れ」ではなく「今 5% だね、80% にするにはどうしたらいいか?」という具体的な対話が成立します。
なぜこれが効くのか
効果 1: 議論が「主観」から「ファクト」に変わる
「もっと新規に注力しろ」「やってます」の堂々巡りが、「5% を 80% に」という具体的目標に変わります。
効果 2: 構造的な問題が見える
「既存顧客対応が 80%」となっている場合、原因はその担当者の能力ではなく、そもそも担当が持っている既存顧客が多すぎる という構造問題かもしれません。これが見えると、配分見直し・既存顧客の引継ぎ等の打ち手が打てます。
効果 3: 全社の生産性を底上げできる
トップ営業が「新規 80%」を実現できているなら、その時間配分パターンを横展開できます。「あの人だけができる」ではなく「全員が再現できる」状態に近づきます。
経営者の朝のブリーフィングと連携
このマネージャー版ダッシュボードは、経営者の朝のブリーフィングとも連動します。
たとえば営業 A さんの「新規 5%」という異常値が、経営者の朝のブリーフィングにシグナルとして上がってくる。経営者が事業部長に「営業 A さんの状況、把握してる?」と確認できる。
詳しくは 経営者の朝 15 分 ── AI で意思決定フォローを自動化する設計 と シグナル DB という発想 で関連トピックを扱っています。
実装の前提条件
- CRM(Salesforce 等)が運用されている:商談ステージ・顧客接触履歴がデータとして残っている
- カレンダー文化が定着している:会議が口約束ではなくカレンダーに登録されている
- 会議の疑似録運用:内容まで分類するなら録画が必要
- マネージャーの分類軸合意:「何を新規と呼ぶか」「何を重要顧客と呼ぶか」が組織内で揃っている
プライバシー面の留意点
社員の時間配分を可視化することは、「監視されている」と受け取られるリスク があります。導入時には:
- 評価に直接使わない運用ルール
- 本人も自分のダッシュボードを見られる対称性
- 改善のための対話の起点という位置づけの明示
を社内合意することをおすすめします。
弊社での構築事例
弊社では、CRM・Google Workspace・Slack を組み合わせたマネージャー版ダッシュボードの構築を行っています。Supabase をデータ基盤とし、業種・職種に応じた分類ロジックをカスタムで設計します。
詳しくは 導入支援 のご案内、または AI 活用診断(無料) からお問い合わせください。