AIエージェントで成果物を作る前に:「中間コンテキスト」を挟む実務設計


AIエージェントで成果物を作る前に:「中間コンテキスト」を挟む実務設計

いきなり完成物を作らせると、なぜぶれるのか

CodexやClaude CodeのようなAIエージェントを使うと、文章、コード、資料、HTML、Webページのたたき台をかなり短時間で作れるようになります。

OpenAIはCodexを、コードの作成、レビュー、出荷を支援するAIエージェントとして説明しています。開発者向けドキュメントでも、Codexはコードを読んだり、編集したり、実行したりできるエージェントとして紹介されています。

ただし、ここで中小企業が注意したいのは「作れること」と「業務で使えること」は別だという点です。

たとえば、社内勉強会の資料、営業用の提案ページ、業務改善レポートをAIにそのまま依頼すると、見た目は整っていても次のような問題が起きやすくなります。

  • 読者が誰なのか曖昧なまま構成される
  • 目的が「説明」なのか「意思決定」なのか分からない
  • 使ってよい情報と使ってはいけない情報が混ざる
  • 参考情報の出どころが確認できない
  • 見た目の完成度に引っ張られて、内容の誤りに気づきにくい

AIエージェントは強力ですが、依頼された作業の前提を勝手にすべて理解するわけではありません。だからこそ、最終成果物の前に一度「中間コンテキスト」を作る設計が重要になります。

中間コンテキストとは何か

中間コンテキストとは、最終成果物の一歩手前に置く、AIと人間の共通メモです。

形式はMarkdownでも、箇条書きのメモでも、表でもかまいません。大事なのは、いきなりスライドやWebページを作るのではなく、先に次の内容を整理することです。

  • 何を作るのか
  • 誰に見せるのか
  • 何を判断してほしいのか
  • 使ってよい事実は何か
  • まだ未確認の情報は何か
  • 入れてはいけない情報や表現は何か
  • 最終成果物の形式は何がよいか

Markdownは、構造化された文章を軽く扱える形式です。CommonMarkは、Markdownの曖昧さを減らすための仕様を提供しています。一方、HTMLはWebコンテンツの意味と構造を定義する基本技術であり、ブラウザで見せる資料や簡易画面に向いています。

そのため、実務では次のように役割を分けると扱いやすくなります。

  • Markdown: 正本、下書き、判断材料、AIに読ませる中間メモ
  • HTML: 会議で見せる画面、社内共有レポート、説明用の成果物
  • スライド: 顧客説明、研修、社外向けの要約資料
  • Webページ: 公開導線、採用ページ、営業用ランディングページ

AIに「いい感じに作って」と頼む前に、中間コンテキストで「何をいいと判断するのか」を言葉にしておく。これだけで、成果物のブレはかなり減ります。

なぜ一度Markdownやメモに落とすのか

中間コンテキストを挟む理由は、AIのためだけではありません。人間が確認しやすくするためでもあります。

最終成果物がいきなりHTMLやスライドになると、デザイン、色、余白、画像、アニメーションに目が向きます。すると、肝心の論点や事実確認が後回しになりがちです。

一方、Markdownや素朴なメモであれば、次を確認しやすくなります。

  • 論理の順番は正しいか
  • 根拠が弱い主張はないか
  • 読者にとって不要な説明が多すぎないか
  • 自社のサービス範囲を誤って広げていないか
  • 機密情報や個人情報が混ざっていないか
  • 表現が煽りすぎていないか

これは、AI活用の品質管理としてかなり実務的です。

中小企業では、資料制作や記事作成を専任チームで分業できないことも多いはずです。だからこそ、AIが作った最終成果物を後から全部直すより、手前の中間コンテキストで方向をそろえるほうが効率的です。

中小企業向けの5ステップ

AIエージェントに成果物を任せるときは、次の5ステップに分けるのがおすすめです。

1. 作業フォルダと素材を分ける

まず、AIに見せる素材を限定します。

議事録、過去資料、CSV、文章メモ、参考URLを一つの作業フォルダにまとめ、不要なファイルや機密情報は入れません。APIキー、顧客情報、社外秘の契約条件などは、そもそもAIエージェントが読める場所に置かないことが基本です。

「このフォルダだけを材料にする」「別フォルダは編集しない」といった境界を明示しておくと、レビューもしやすくなります。

2. まず中間メモだけを作らせる

次に、AIへ最終成果物ではなく中間メモを作らせます。

たとえば、次のように依頼します。

このフォルダ内の資料をもとに、社内共有用の中間メモをMarkdownで作成してください。
目的、読者、主要論点、確認済み事実、未確認事項、使わない表現、最終成果物案を分けて整理してください。
まだ事実確認できていない内容は断定しないでください。

ここで重要なのは、AIに「完成物を作る前の整理」を任せることです。

3. 人間が中間メモを直す

中間メモが出たら、人間が見ます。

ここで見るべきなのは、文章のきれいさではありません。見るべきなのは、目的、読者、事実、禁止事項です。

特に公開コンテンツでは、文字起こし、SNS投稿、二次情報を事実源として扱わないことが重要です。製品名、料金、提供条件、日付、法令、統計、企業発表は、公式情報や一次情報に当たり直します。

この段階で直すほど、後工程は楽になります。

4. 最終成果物に変換する

中間メモが整ったら、目的に合わせて変換します。

  • 会議で見せるならHTMLレポート
  • 顧客説明ならスライド
  • 公開するならブログ記事やLP
  • 社内運用ならチェックリストや手順書

このときも、「中間メモから外れないこと」「未確認情報は入れないこと」「CTAやサービス範囲を正本に合わせること」を指示に含めます。

5. 最後にファクトチェックする

最終成果物ができたら、公開前にもう一度確認します。

見た目が整っているほど、確認を飛ばしたくなります。しかし、AI生成物では次の確認が欠かせません。

  • 固有名詞は正しいか
  • 料金や提供条件は現在の正本と一致しているか
  • 強すぎる断定が残っていないか
  • 著作権・商標・引用の扱いに無理がないか
  • 機密情報が残っていないか
  • 元ソースの言い回しや構成をなぞっていないか

AIエージェント時代の成果物作成は、「速く作る」より「速く確認できる形にする」ことが大事です。

Webからコンテキストを集めるときの注意

AIエージェントは、Web上の情報を調べ、要点をまとめる用途にも使えます。

ただし、ここでも注意が必要です。検索結果をそのまま集めても、質の低い情報、古い情報、広告目的の情報、二次情報が混ざります。

参考情報を集めるときは、次の順番を意識します。

  1. 公式ドキュメント、一次情報、標準仕様
  2. 企業の正式発表、行政資料、規約
  3. 専門家による検証記事や技術解説
  4. SNSや個人ブログは、発想のきっかけとして扱う

また、他社のWebページや資料を参考にする場合は、文章やデザインをそのまま写すのではなく、構成原則に抽象化します。

たとえば、「このサイトの見た目を真似して」ではなく、次のように依頼します。

複数の公式サイトを調べ、トップページの情報設計パターンを抽象化してください。
色、文言、レイアウトをコピーするのではなく、読者導線、CTA配置、信頼材料の置き方、ファーストビューで伝えるべき情報を整理してください。

AIに任せるほど、素材の選び方と確認の仕方が重要になります。

権限設計も中間コンテキストの一部

AIエージェントは、単なるチャットよりも強い権限を持つ場合があります。ファイルを読み、書き換え、コマンドを実行し、外部サービスと連携することもあります。

そのため、作業前に次を決めておくべきです。

  • どのフォルダを読ませるか
  • どのフォルダは編集禁止にするか
  • コマンド実行は毎回確認するか
  • 外部通信を許可するか
  • 秘密情報をどこに置かないか
  • 最終反映前に人間が見る場所はどこか

OpenAIのCodex app紹介でも、Codex agentsは既定では作業中のフォルダやブランチ内の編集などに制限され、より高い権限が必要なコマンドでは許可を求める設計が説明されています。

この考え方は、どのAIエージェントを使う場合でも参考になります。便利だから全部許可するのではなく、作業の種類ごとに権限を分ける。これも中間コンテキスト設計の一部です。

Optiensではこう考える

Optiensでは、AI活用を「最新ツールを触ること」ではなく、「業務のどこにAIを置くかを設計すること」と捉えています。

中間コンテキストは、その設計のための小さな土台です。

AIに任せるほど、人間は次の判断に集中できます。

  • 何を目的にするか
  • どの情報を信じるか
  • どこまで自動化するか
  • どこで止めて確認するか
  • 誰にどう伝えるか

AIエージェントは、仕事を一気に進める力を持っています。ただし、速く進むほど、間違った方向にも進みやすくなります。

だからこそ、最初に中間コンテキストを作る。目的、素材、判断基準、権限、確認ポイントを一度見える形にする。

この一手が、AI成果物を「それっぽいもの」から「業務で使えるもの」に近づけます。

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