AIに「このデータを分析して」と頼むと、SQLやグラフの案が返ってくる。
この流れは、かなり現実的になっています。
以前は、社内データを見える化するには、BIツールの画面を操作し、項目を選び、グラフを作り、細かな表示を調整する必要がありました。今は、Markdown、SQL、可視化コンポーネントを組み合わせたファイルをAIに書かせ、レポートやダッシュボードを作る選択肢も出ています。
Evidenceの公式ドキュメントでは、EvidenceはSQLでレポート、意思決定支援ツール、埋め込みダッシュボードなどのデータプロダクトを作るためのオープンソースフレームワークと説明されています。公式サイトでも、ドラッグ&ドロップ型BIの代替となるコードベースの選択肢として紹介されています。
これは便利です。
ただし、中小企業がここで見るべき論点は「どのBIツールが新しいか」だけではありません。
本当に大事なのは、ダッシュボードを画面として作る前に、指標の定義を会社の資産として残せるかです。
この記事では、AI時代にダッシュボードを作るとき、なぜ指標定義をコードやテキストとして残すことが重要になるのかを整理します。
ダッシュボード作成は、画面づくりだけではない
社内でダッシュボードを作ろうとすると、最初に見た目へ意識が向きます。
売上の折れ線グラフ、問い合わせ件数の棒グラフ、案件数のカード、月次推移、店舗別の比較。きれいな画面ができると、データ活用が進んだように見えます。
でも、実務でつまずくのは見た目より前です。
この売上は税込か税抜か
キャンセル分は引いているか
問い合わせ件数に迷惑メールは入るか
今月の数字は速報値か確定値か
同じ指標を別部署も同じ意味で使っているか
ここが曖昧なままグラフを作ると、画面はできても会議で止まります。
「この数字はどこから来たのか」「先月の資料と違うのはなぜか」「担当者が変わったら直せるのか」という確認が毎回発生します。
AIがSQLを書けるようになるほど、この問題は見えにくくなります。なぜなら、画面を作る速度が上がる一方で、指標の意味が曖昧なままでも、それらしいグラフができてしまうからです。
ダッシュボード作成は、画面づくりではなく、会社として見る数字の定義をそろえる作業です。
BI as Codeは、指標の履歴を残しやすい
BI as Codeの発想は、ダッシュボードをクリック操作だけで作るのではなく、テキストファイルとして定義することです。
EvidenceのGitHubでは、MarkdownファイルからWebサイトを生成し、Markdown内のSQLがデータソースに対してクエリを実行し、その結果をチャートやコンポーネントで描画すると説明されています。公式ドキュメントでも、EvidenceのレポートはSQLクエリ、データ可視化コンポーネント、プログラム的な機能を含むMarkdownで書くとされています。
この形の良さは、かっこよさではありません。
定義が残ることです。
たとえば、月次売上のグラフを作る場合、次の要素が1つのファイルや関連ファイルに残ります。
何を集計しているか
どの条件で除外しているか
どの列を日付として使っているか
どの粒度でグループ化しているか
画面上でどう説明しているか
これがテキストとして残っていれば、あとからレビューできます。変更履歴も追えます。AIに修正を頼むときも、「この指標の計算条件を変えたい」と具体的に依頼できます。
反対に、画面操作だけで作ったダッシュボードは、どこをどう触ったのかが属人化しやすいです。作った人が退職したり、担当が変わったりすると、数字の意味を追うのが難しくなります。
中小企業では、専任のデータ担当者が常にいるとは限りません。だからこそ、指標定義がテキストで残ることには実務上の意味があります。
AIに任せる前に決める4つの定義
AIにダッシュボードを作らせる前に、最低限4つの定義を決めます。
1. 指標名
まず、何を見るのかを言葉で決めます。
「売上」だけでは広すぎます。受注額、請求額、入金額、粗利、継続売上、初回売上では意味が違います。
問い合わせも同じです。フォーム送信数、営業対象になる問い合わせ、既存顧客からの問い合わせ、採用応募、迷惑メールを除いた件数では、判断が変わります。
AIに頼む前に、人間が指標名を決めます。
2. 計算式
次に、どう計算するかを決めます。
売上 = 請求済み金額の合計
有効問い合わせ = 問い合わせ全体 - 迷惑メール - 採用応募
対応遅れ = 初回返信まで24時間を超えた問い合わせ
このレベルでよいので、先に言葉にします。
SQLはAIが下書きできます。しかし、計算式そのものを決めるのは会社側です。ここをAIに丸投げすると、一般的には正しそうでも、自社の会議では使えない数字になります。
3. 粒度
同じ指標でも、日次、週次、月次、店舗別、担当者別、顧客区分別で見え方が変わります。
粒度を決めないままグラフを作ると、あとから「見たいものと違う」となります。
最初は多く作りすぎない方がよいです。
毎週の会議で見るなら週次。月次経営会議で見るなら月次。現場改善なら担当者別や店舗別。目的に合わせて粒度を絞ります。
4. 確認者
最後に、人間の確認者を決めます。
AIが書いたSQLが動いても、指標として正しいとは限りません。データの欠損、除外条件、例外処理、古いデータの扱いは、人間が確認する必要があります。
少なくとも、次の2人の役割を分けます。
業務を知っている人: 指標の意味が現場と合っているかを見る
データを触れる人: SQLやデータ元の条件が合っているかを見る
人数が少ない会社では同じ人が兼ねても構いません。ただし、役割としては分けて考えます。
最初の一枚は、経営会議ではなく反復業務から作る
ダッシュボードというと、経営会議用の立派な画面を想像しがちです。
でも、最初から全社KPIを作ろうとすると重くなります。
中小企業がAIとBI as Codeを試すなら、最初の一枚は反復業務から作る方が安全です。
たとえば次のようなものです。
問い合わせ対応:
- 週ごとの問い合わせ件数
- 初回返信までの平均時間
- 未対応の件数
- よくある問い合わせカテゴリ
営業活動:
- 新規商談数
- 提案済み件数
- 失注理由の分類
- 次回アクション未設定の案件数
社内作業:
- 未完了タスク数
- 期限超過タスク数
- 手戻りが発生した件数
- AIで下書きしたが人間修正が多かった作業
これらは、会社の大きな戦略を語るためというより、毎週の改善に使う指標です。
小さな反復業務であれば、データ元も限られます。計算式も確認しやすいです。AIが書いたSQLの間違いにも気づきやすくなります。
最初の目的は、完璧な経営ダッシュボードを作ることではありません。
指標を決め、AIに下書きさせ、人間が確認し、次週も同じ定義で見られる状態を作ることです。
コード管理すると、AIへの依頼も具体的になる
指標定義がファイルとして残ると、AIへの依頼も変わります。
曖昧な依頼は、こうなります。
売上のダッシュボードを作ってください。
いい感じに分析してください。
見やすいグラフにしてください。
一方で、定義が残っていると、次のように頼めます。
既存の週次問い合わせダッシュボードに、
初回返信が24時間を超えた件数を追加してください。
有効問い合わせの定義は既存ファイルに合わせてください。
グラフ下に、先週比が増えた場合の確認観点を3つ書いてください。
この差は大きいです。
AIは、何もないところから「いい感じ」を作るより、既存の定義に合わせて追加・修正する方が実務に馴染みます。
また、コード管理されていれば、AIが変更した箇所を差分で確認できます。SQLの条件が変わったのか、文章だけが変わったのか、グラフの種類だけが変わったのかを見分けられます。
これは、AI時代のダッシュボード運用でかなり重要です。
AIに速く作らせるほど、あとから人間が確認できる形にしておく必要があります。
注意点は、SQLを書ける人がいなくなることではない
BI as Codeという言葉を聞くと、「結局コードが書ける人向けではないか」と感じるかもしれません。
その懸念は半分正しいです。
SQLやデータ元の理解は必要です。AIが下書きしたとしても、数字が経営判断に使えるかどうかは確認しなければいけません。
ただし、注意点は「全員がSQLを書けないと使えない」ことではありません。
本当に危ないのは、SQLを書ける人だけが指標の意味を握ってしまうことです。
ダッシュボードは、データ担当者だけのものではありません。現場が見て、管理者が判断し、経営者が次の打ち手を決めるためのものです。
だから、コードで残す場合でも、次のように分けます。
SQL: データの取得条件
Markdown: 指標の説明、使い方、注意点
グラフ: 判断しやすくする表示
レビュー記録: いつ、誰が、何を確認したか
Evidenceの公式ドキュメントでは、Markdown内のSQLクエリはDuckDB方言で実行されると説明されています。こうした技術仕様を理解する担当者は必要です。
一方で、経営者や現場責任者が見るべきなのは、SQLそのものだけではありません。指標の説明、除外条件、見た後の判断です。
AIでコードが書きやすくなるほど、技術担当者と業務担当者の会話を分けないことが大事になります。
Optiensの見方
Optiensでは、AI活用を「AIに作らせること」ではなく、「業務の判断材料を再現できる形にすること」として見ています。
ダッシュボードも同じです。
AIにグラフを作らせるだけなら、最初の画面は早くできます。しかし、指標名、計算式、粒度、確認者、更新履歴が残っていなければ、社内の判断材料として育ちません。
BI as Codeの価値は、コードを書くこと自体ではありません。
数字の意味を残し、レビューできる形にし、AIにも人間にも引き継げることです。
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