AIに聞けば、Excel関数やVBAの下書きはかなり簡単に作れます。
「この列を集計したい」「請求書一覧をまとめたい」「ボタンを押したら転記したい」と伝えるだけで、関数やマクロの案が返ってくる。非エンジニアの現場でも、これまで手が届かなかった小さな自動化に挑戦しやすくなりました。
ただし、ここで一つ大きな問題が起きます。
作れることと、保守できることは別です。
AIが作った関数やVBAをそのまま社内に配ると、数か月後に「このファイル、誰が直せるのか」「このエラーは何なのか」「担当者が変わったら止まった」という状態になりやすいです。この記事では、AIで作ったExcel関数・VBAを、次の担当者が保守できる形で渡すためのルールを整理します。
AI生成Excelは、便利なほど野良化しやすい
AIでExcelを触ると、最初の成功体験は強いです。
今まで調べても分からなかった関数が動く。VBAを書いたことがない人でも、ボタン付きの処理を作れる。手作業で30分かかっていた集計が、数秒で終わる。
これは確かに便利です。
しかし、現場で怖いのはその後です。
- 作った本人が中身を説明できない
- 変数名やセル範囲の意味が分からない
- エラーが出たときの戻し方がない
- どの業務で使っているか台帳に残っていない
- 担当変更後に誰も直せない
- マクロのセキュリティ設定だけが人によって違う
AI生成のExcelやVBAは、作るハードルが下がった分、管理されないまま増えやすくなります。これは「AIを使うな」という話ではありません。むしろ、作れるようになったからこそ、引き継ぎの型を先に置く必要があります。
最初に残すのは、コードではなく業務の説明
VBAや複雑な関数をAIに作らせるとき、最初に残すべきなのはコードの説明ではありません。
業務の説明です。
最低限、ファイルの先頭シートや別紙に次の内容を書きます。
ファイルの目的:
使う部署・担当:
入力するデータ:
出力する結果:
実行するタイミング:
失敗したときに戻す方法:
最終確認する人:
AIが書いたVBAを読めなくても、業務の目的が分かれば調査できます。逆に、コードだけが残っていて業務の流れが分からないと、直す人は何を守ればよいか分かりません。
Excel自動化の保守で一番大事なのは、「コードを理解すること」より先に、「何の業務を壊してはいけないのか」を分かる状態にすることです。
関数やセルには、意味が分かるメモを残す
Excelには、セルへコメントやメモを追加する機能があります。Microsoftの公式ヘルプでも、セルにコメントを追加でき、セルにコメントがある場合はインジケーターが表示されると説明されています。また、メモはセルに注釈やリマインダーを追加する用途として説明されています。
AIで複雑な関数を作った場合は、関数そのものだけでなく、次の情報も残します。
このセルが何を計算しているか
どの列を入力として使っているか
どの条件を除外しているか
どの業務判断に使うか
変更してよい範囲はどこか
たとえば、次のようなメモがあるだけでも、後から読む負担はかなり下がります。
このセルは、請求済み行だけを対象に今月の税抜売上を合計する。
キャンセル行とテスト行は除外する。
月次報告の速報値に使うため、確定後は会計データ側を正とする。
「AIが作ったから分からない」で終わらせず、AIに「この関数の目的を人間向けに1行で説明して」「このセルに残すメモ文を作って」と頼む。ここまでを作業の一部にします。
VBAは、処理名と変数名を人間向けにする
VBAやマクロでありがちな問題は、動くけれど読めないことです。
data1、tmp、x、sheet2 のような名前が並ぶと、数か月後に見た人は何を扱っているのか分かりません。AIは指示がなければ、それっぽく動くコードを優先することがあります。だから、人間が読むための条件を先に渡します。
AIにVBAを書かせるなら、次のように依頼します。
変数名、関数名、シート名は、業務内容が分かる名前にしてください。
各処理ブロックの前に、何をしているかを日本語コメントで書いてください。
担当者が後から変更しそうな値は、先頭にまとめてください。
エラー時にどこで止まったか分かるようにしてください。
コメントは多ければよいわけではありません。大事なのは、変更時に見る場所が分かることです。
' 設定値: 月次集計で対象にするステータス
targetStatus = "請求済み"
' 入力シートから請求済み行だけを集計する
この程度でも、何もないよりずっと保守しやすくなります。
エラー対応を作成時に聞いておく
Excel関数やVBAは、最初に動いたとしても、入力データやシート名が変われば止まります。
だから、完成後ではなく作成時にAIへ聞きます。
この関数・VBAで将来起きやすいエラーを5つ挙げてください。
それぞれについて、原因、確認する場所、直し方、直せない場合の戻し方を書いてください。
ここで出た内容は、別紙の「よくあるエラー」欄に残します。
エラー内容:
起きる場面:
確認する場所:
直し方:
戻し方:
判断に迷ったときの相談先:
これは、未来の自分や後任者への保険です。保守の現場では、エラーが出てから調べ始めると焦ります。作った直後はまだ文脈が残っているので、その時点でエラー対応表まで作っておく方が安いです。
マクロはセキュリティ設定と責任者を分ける
Excelのマクロは便利ですが、セキュリティ上の扱いも必要です。
Microsoftの公式ヘルプでは、Excelのマクロセキュリティ設定で、ブックを開くときにどのマクロをどの条件で実行するかを制御できると説明されています。また、「すべてのマクロを有効にする」は推奨されず、潜在的に危険なコードを実行できる設定だと明記されています。
つまり、AIで作ったマクロを配るときに、「各自で有効化してください」だけで終わらせるのは危険です。
最低限、次の内容を決めます。
- 誰がこのマクロの利用を承認したか
- どのフォルダ、どのファイルだけで使うか
- 社外から受け取ったファイルでは使わないか
- マクロを有効にする判断を誰が行うか
- エラー時にマクロを止める方法は何か
- 修正できる人、修正してはいけない人は誰か
Excelのマクロ編集にはVisual Basic Editorを使うとMicrosoftは説明していますが、編集できることと、業務として変更してよいことは別です。小さな会社ほど、この違いを曖昧にしない方が安全です。
野良Excelを増やさないための台帳
AIで作ったExcelファイルやVBAを社内で使うなら、簡単な台帳を作ります。
立派なシステムでなくても構いません。最初はスプレッドシート1枚で十分です。
ファイル名:
保存場所:
業務目的:
利用部署:
作成者:
保守担当:
最終更新日:
入力データ:
出力データ:
マクロ有無:
外部連携有無:
よくあるエラー:
停止してよい条件:
この台帳がないと、AIで作った便利ファイルはすぐに属人化します。誰かのデスクトップ、個人OneDrive、メール添付、古い共有フォルダに散らばり、どれが最新版か分からなくなります。
台帳の目的は、管理のための管理ではありません。止まったときに業務を戻せるようにすることです。
Optiensの見方
Optiensでは、AI活用を「作れるようにすること」ではなく、「使い続けられる業務にすること」として見ています。
Excel関数やVBAは、中小企業の現場にとって今でも強い道具です。AIによって、その道具を触れる人は増えます。ただし、作る人が増えるほど、保守担当、変更履歴、コメント、台帳、停止条件がないファイルも増えます。
最初から大きな業務システムに置き換える必要はありません。まずは、既存のExcel自動化を一つ選び、次の5点をそろえます。
- 業務目的
- 人間向けコメント
- 変更してよい場所
- よくあるエラーと戻し方
- 保守担当と台帳
この5点がそろえば、AIで作ったExcelは「その場限りの便利ファイル」から「引き継げる業務資産」に近づきます。
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